旅の適期とヒマラヤの天気



■ ヒマラヤ山脈によって作られる気候帯


首都、山間部、氷河地帯で比較した年間気温(最高、最低)
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図でわかるように、町と山との間には大きな気温の差があります。訪問地域の標高はしっかりと把握しておくことが大切です。
文章で書くと、以下のような季節感となります。

◎10〜11月

ネパール全体をつうじて最もトレッキングに適した期間。好天期間が長いため、青空が冴えて写真撮影に適する。
時に嵐となり、高標高地帯に大雪を降らす。4,000mより上で夜の気温が氷点下に下がる。

◎12〜1月

空が一番きれいに晴れて写真が良く撮れる。また最低気温となり、4,000m以上では-5℃以下になる。4,000m以上に暮らす住民の多くは12月になると暖かい地方へ移動する。そういう場所へ行く予定なら、出かける前に再補給・宿の確保についてしっかりとリサーチするべし。

◎2〜3月

1月よりは暖かい。しかし、時には大雨とブリザードが山岳地帯を一掃し、その影響で数週間、峠が閉鎖されることもある。3月になると、春雨のはしりがもたらすシャクナゲの開花が低標高地域でみられる。3月末ごろから、インド方面から来るダストが景色を曇らせ始める。標高の低い地域ではハッキリと温かくなってくる。

◎3〜5月

シャクナゲの開花が本番となることで有名(木陰の花は6月まで)。5月になると、標高の低い地域では気温がだいぶ高まってきて、遠方の山々はカスミがかかり見えづらくなる。渡り鳥を観察するには良い時期。


というように、夏=高温多湿、冬=低温乾燥となる亜熱帯モンスーン気候


ヒマラヤを旅する人々にとって「夏の大雨=スコールを降らすもと」として意識されていることでしょう。
しかし、夏 (主に6〜9月) は回避すべきシーズンとばかりは言えないのです。

そのわけをお話する前に、モンスーン気候を作り出す気象メカニズムを俯瞰してみます。

チベット高原とアフリカとの関係

意外にも、ネパールやインドに夏の大雨をもたらすモンスーン気候のメカニズムは、北に控えるチベット高原と、遥か西のアフリカ大陸との関係性からはじまります。

アジアの夏の大気循環を示します。
赤道地方の高気温によって海水が上昇気流となった空気は、このようにアフリカの東の海から吹き始める風となり、アジア上空を東へと横断します。
そして、インドの北寄り (ヒマラヤ山脈) で湿り気を帯びた気流は大きなウズを作って雨雲を発生させます。
これが、6月〜9月に降り続くモンスーンの大雨です。

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ヒマラヤ山脈は気流をさえぎるため、渦を作る衝立の様に機能しているのです。
東行する大気の大動脈をネパール側へと誘い込むのは、夏のチベット高原の巨大低気圧といわれています。

海抜4000mを越えるチベット高原。夏、強烈な太陽光線がこの高所へ容赦なく降り注ぎ続けます。
暖められた地面から強い上昇気流 (巨大低気圧) が発生し、アフリカ沿岸部から東へ吹く大きな流れを北方向へ誘導してしまいます。
この時、ガードレールの様に気流を遮るヒマラヤ山脈。こうして湿った気流による反時計回りの渦が発生します。

ヒマラヤの山岳地帯へ入ってきた渦巻く気流は、山にぶつかると同時に斜面にそって持ち上げられます。
こうして、丘陵地帯以下には雨、山岳地帯には雪が降ります。

ネパールには、横の縞模様のように山脈が並んでいます。湿気を含んだモンスーンの雲は、これにぶつかるごとに雨を降らせます。

◯ ヒマラヤの森や畑の恵みを作るモンスーン

標高約3000m以上の森の中、降り続く霧雨によって、特有の生態系をもつ森林「雲霧林 (Cloud-Forest)」が生まれます。
そこではごく普通に、日本にはないスケールの大木のシャクナゲ純林が見られます。毎年3~4月に美しい花を咲かせます。秋には、豊富なラン類が樹木や湿った岩壁に着生し、歩きながら愛でる事もできます。

雨季のヒマラヤ。牧草地は青々とした色合いとなり、無数の野草がいっせいに花を咲かせます。標高の高い地域では有名なブルーポピーを含む珍しい高山植物の花々。
田園地帯では、働く人々の歌声がこだまして生命感に満ちてきます。

また、大雨のせいで使えなくなる未舗装道路も出てきます。地面が泥濘んでしまい、モンスーンが過ぎ去るまで運休する、未舗装滑走路の地方空港もあります。

モンスーンの影響を受けにくい地域

モンスーンの湿気た重い雨雲は、南東から北西へ吹く風に運ばれてきます。
ヒマラヤは衝立、ガードレールであると書きました。このため、雨雲をブロックしてくれる役割を果たすこともあります。衝立の裏側 (北側) 地域は比較的、天気良好となります。
最たる例は、グレートヒマラヤ山脈そのものにガードされたチベット高原です。

また、アンナプルナとダウラギリの両山脈がその良い例ですが、この裏側にあたるムスタンドルポなどの地域は「レインシャドー (Rain-Shadow)」と呼ばれ、やはり雨季の降雨が少なくなります。
このようにスポット的に多雨を避けられる地域では、寒くない、花が綺麗、天気がそれほど悪くない、と好条件が揃って意外と夏も良いものです。

ムスタンの村

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